PA(ポリアミド)の試作を検討している方へ【PAの特徴や試作・成形の代表的な用途を解説します】
PA6-N (東レ アミラン CM1017)
PA(ポリアミド)は合成繊維として初めて開発されたポリマーで、耐摩耗性に優れています。
本記事では、エンジニアリングプラスチックの一つであるポリアミドの基本情報について解説します。
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目次
PA(ポリアミド)の略号と名称
- 略号:PA(Polyamide)
- 名称:ポリアミド(脂肪族ポリアミドはナイロンとも呼ばれ、芳香族ポリアミドはアラミドとも呼ばれる)
- 外観:乳白色など
生産工程の自動化を図りやすい、分子構造に多くのアミド結合を持つ結晶性のポリマー。例えば、ポリアミド66はヘキサメチレンジアミンとアジピン酸から縮合重合された高分子化合物になります。
PA(ポリアミド)の概要
PA(ポリアミド)とは重合反応によりアミド結合を持つポリマーの総称です。ポリアミドは一般的に、脂肪族ポリアミドと芳香族ポリアミドとに分けられます。
脂肪族ポリアミドは分子構造が鎖状に結合しているポリマー、芳香族ポリアミドは環状構造を持つポリマーです。
脂肪族ポリアミドは別名ナイロンとも呼ばれますが、その歴史は古く、1930年代後半に開発されました。開発されたナイロンはアジピン酸とヘキサメチレンジアミンが炭素を6個含むため、「ナイロン66」と呼ばれています。
ナイロン66を起源として、現在ではさまざまなポリアミドが開発されており、脂肪族ポリアミドはジカルボン酸とジアミンがもつ炭素原子の数を名前の由来として「ポリアミド69」「ポリアミド610」「ポリアミド6」などが存在しています。
ナイロンが丈夫なのは、アミド結合を持つため水素結合を引き起こすからです。ポリマー鎖同士が水素結合を形成することにより、沸点は上昇し、非常に強い繊維を作りだすことができます。
一方、芳香環骨格を持つ芳香族ポリアミドは、アラミドとも呼ばれています。脂肪族ポリアミドよりも強靭なプラスチックであり、軽量かつ金属を超える耐久性を誇ることから、現在では防弾チョッキや航空機の部品などに活用されています。
PA(ポリアミド)の種類
PA(ポリアミド)の種類とその特徴について解説します。
ポリアミド66(ナイロン66)
ポリアミド66は、エンジニアリングプラスチックとしてバランスのとれた物性を持っており、結晶化度が高いのが特徴です。そのため、耐摩耗性に優れているだけでなく、耐油性や耐薬品性もポリアミドの中では優れている部類に入ります。
主な用途として染色がしやすいことから衣類の繊維として使われたり、自動車のエンジン部品やアウトドア用品、歯ブラシ、工業用ファスナーに使われていたりします。
融点は265℃、ガラス転移温度は65℃です。
ポリアミド6(ナイロン6)
環状化合物のε-カプロラクタムに水を加えて加熱すると、アミド結合が切れて開環重合が起こることによりポリアミド6が合成されます。強度と耐熱性に優れているポリアミド6は、五大エンジニアリングプラスチックの一つに数えられます。
強靭で弾力性があり、耐薬品性にも優れていますが、ポリアミド66と比べると耐熱性の面でやや劣る部分があります。しかし、脂肪族ポリアミドとして今日では最もよく使われており、金属部品の代替品としても活用されている樹脂です。
日本では1940年代から釣り糸や航空機部品として生産されており、現在では食品用フィルムや自動車部品、電気・電子部品各種、ガソリンタンクなど、多くの分野で使用されています。融点は225℃、ガラス転移温度は48℃です。
パラ系アラミド
芳香環骨格を持つポリアミドをアラミドと呼び、分子構造からパラ系アラミドとメタ系アラミドとに分けられます。
パラ系アラミドは、パラフェニレンジアミンとテレフタル酸塩化物が重縮合したものから得られる樹脂です。ただしそのままだと非常に剛直であるため、濃硫酸溶液に溶解し、溶液中で分子骨格が向きを揃えた状態にして繊維構造を形成させます。
パラ系アラミド樹脂は、スーパー繊維と呼ばれるほど軽量で強靭な材料です。その強靭さは、繊維中で分子同士が並んで水素結合を形成していることによります。
高負荷な環境下でも耐えられる素材であり、防刃手袋や建築資材の補強材などに活用されています。また、耐熱性にも優れ、400~480℃まで炭化しません。その上、難燃性でもあるので防火用品にも応用がききます。
メタ系アラミド
メタ系アラミドは分子構造が曲がっているため、パラ系アラミドのような強靭さはありません。しかし、400℃を超える耐熱性があり、防炎性にも優れています。難燃性の素材としては、比較的強度が高いのも特徴の一つです。
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PA(ポリアミド)の物性について
ポリアミド66とポリアミド6の物性表は以下の通りです。ここでは、各性質について解説します。
ポリアミド6 | ポリアミド66 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
単位 | ASTM | 非強化 | ガラスF充填 | 非強化 | ガラスF充填 | |
セルロース充填 | 30-35重量% | セルロース充填 | 33重量% | |||
透明性 | – | – | 半透明-不透明 | 半透明-不透明 | ||
[物理的・機械的性質] | ||||||
比重 | – | D792 | 1.12-1.14 | 1.35-1.42 | 1.07-1.09 | 1.33-1.34 |
引張強さ | MPa | D638 | 41-166 | 166 (dry) | 48-67 | 125-140 |
破断時伸び | % | D638 | 30-100 (dry) | 2.2-3.6 (dry) | 55-200 | 4-7 |
引張弾性率 | MPa | D638 | 2600 (dry) | 8600-10000 (dry) | – | 7800 |
圧縮強さ | MPa | D695 | 89-110 (dry) | 131-166 (dry) | – | 103-138 (dry) |
曲げ強さ | MPa | D790 | 108 (dry) | 234 (dry) | 59 | 189-206 |
衝撃強さ (アイゾット ノッチ付) | J/m | D256 | 32-118 (dry) | 112-181 (dry) | 907-1014 | >171-240 |
硬度 (ロックウェル) | – | D785 | R119 (dry) | M93-96 (dry) | R100 (dry)R107, 113 | R100 (dry)R115, 116 |
硬度 (ショア) | – | D2240 | – | – | – | – |
硬度 (バーコル) | – | D2583 | – | – | – | – |
[熱的性質および成形時の性質] | ||||||
線膨張率 | x10-5/℃ | D696 | 8.0-8.3 | 1.6-8.0 | – | 0.16 |
荷重たわみ温度 (1.81MPa) | ℃ | D648 | 68-85 (dry) | 200-232 (dry) | 66-68 | 230-243 |
成形温度 (射出) | ℃ | – | 230-290 | 240-290 | 280-300 | 280-300 |
成形温度 (押出) | ℃ | – | 230-270 | – | – | – |
成形収縮率 | % | – | 0.5-1.5 | 0.4 | 0.8-1.5 | 0.5 |
[電気的性質] | ||||||
体積抵抗率 | Ω·cm | D257 | 1011 | 1011 | 1011-1014 | 1011-1014 |
絶縁破壊強さ | KV/mm | D149 | 15 (dry) | 15-18 (dry) | – | – |
誘電率 | 106Hz | D150 | 3.4 | 3.9-4.5 | – | 3.4-4.0 |
耐アーク性 | sec | D495 | – | – | 130-140 | 148 |
[化学的性質および燃焼性・吸水性] | ||||||
耐酸・耐アルカリ性 | – | D543 | 強酸・強アルカリに侵される | 強酸・強アルカリに侵される | ||
耐溶剤性 | – | D543 | フェノール・ギ酸に溶解 | フェノール・ギ酸に溶解 | ||
燃焼性 | mm/min | D635 | 自消性 | ゆっくり燃える | 自消性 | ゆっくり燃える |
吸水率 (24hr) | 重量% | D570 | 1.3-1.9 | 0.9-1.2 | 1.0-1.3 | 0.7 |
引用:https://www.kda1969.com/materials/pla_mate_pa66b.htm
物理的・機械的性質
結晶化度が高いためポリアミド66と6ともに見た目は半透明か不透明。引張弾性率と衝撃強さなど、機械的性質はプラスチックの中でもバランスが良く、特に耐摩耗性に優れていると言えます。
ガラス繊維を充填剤として用いることで、機械的性質をさらに向上させることができます。
ただし、吸湿により機械的性質が低下する可能性があるため、製品の材料として検討する時は、使用環境を考慮することが必要です。
熱的性質・成形時の性質
プラスチック材料を決める際の温度として重要な荷重たわみ温度は、ポリアミド6が68-85℃、ポリアミド66が 66-68℃です。融点はどちらも高く、耐熱性には優れているため過酷な環境下での使用に適しています。
射出成形の成形条件の一つである成形温度はポリアミド6が230-290℃、ポリアミド66が 280-300℃となっており、汎用エンジニアリングプラスチックの中では中間に位置する温度です。成形時の材料温度が低い方が成形サイクルは早くなるため、射出成形として適した材料だと言えます。
ただし、どちらのポリアミドも成形収縮率が他のプラスチックに比べて高く、成型後の寸法精度が低くなる可能性があります。金型設計や成形条件の設定・調整においては、熱収縮率を考慮しなければならないので、熟練の技術が必要です。
電気的性質
絶縁性を表す体積抵抗率はともに1011-1014Ω·cmと、プラスチック材料としては平均値。しかし、温熱処理をすると体積抵抗率が大きく下がる傾向にあり、高電圧での使用ではPBTの方が優れていると言えます。温熱環境下ではない電気部品のコネクタなどには適しています。
化学的性質・燃焼性・吸水性
ガソリン・オイル等の有機溶剤に対して、優れた耐性があります。また、難燃性のためアウトドア用品や電気部品に適した材料と言えます。
PA(ポリアミド)の用途
ポリアミドはエンジニアリングプラスチックの一つであり、耐摩耗性に優れています。中でも、ポリアミド66や6は融点が高く、耐薬品性と耐油性もあるため、特に自動車のエンジン周りの部品として使用されています。
自動車部品の主な用途として、シリンダヘッドカバー、インテークマニホールド、ラジエータータンク、オイルパン、アクセルペダル、キャニスター、NOx対策尿素水タンク、トランスミッションマウント、ガソリンのインジェクタ部品 、エアバッグハウジング、工業用ファスナー、シフトレバー部品、ABSセンサなどが挙げられます。
インテークマニホールドは、エンジンに送り込む混合気を各シリンダーに配分する配管であり、いくつも枝分かれしている複雑な形状です。成形には射出成形のほか、注型でも対応可能です。
また、透明性、耐寒性、耐熱性、耐油性、耐薬品性などに優れていることから、食品包装用フィルムとしても活用されています。
一方、芳香族ポリアミドであるアラミドは、軽量かつ金属よりも強靭です。タイヤの補強材として使われていたスチール線に取って代わるような材料です。なぜならアラミドに置き換えることで、軽くて丈夫なタイヤにできる上、大型トラックなら一台分で数百㎏は軽くする効果があるからです。現在は、その強靭さから、インターネットインフラとしては欠かせない光ファイバーケーブルや防弾チョッキなどに応用されています。
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